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津地方裁判所 昭和52年(行ウ)8号 判決

原告 岩田元男

被告 東員町長 自治省

訴訟代理人 細井淳久 澤田成雄 木村三春 外六名

主文

一  被告東員町長に対する本件訴のうち、原告の昭和五二年度町県民税の第二期分から第四期分までの納期前納付に対する報奨金額の決定及び既交付済金額八七〇円を除く二六一円の支払請求にかかる部分を却下する。

二  原告の被告東員町長に対するその余の請求を棄却する。

三  被告自治省に対する本件訴を却下する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  被告東員町長が昭和五二年六月一〇日付で原告に対し、同年度町県民税の第二期分から第四期分までの税金二万六一〇〇円を納期前納付した場合の報奨金額を八七〇円とした処分はこれを取消す。

2  被告東員町長は、原告の昭和五二年度町県民税の第二期分から第四期分までの税金二万六一〇〇円の納期前納付に対する報奨金額を一一三一円と決定し、且つ、原告に対し既交付済金額八七〇円を除く二六一円を支払え。

3  被告自治省が、地方税法三二一条三項にいう「納期前に係る月数」とは、その納付の日から関係納期の始期の前日までの間の月数であるとする行政実例はこれを取消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

(本案前の答弁)

主文第三項と同旨

(本案の答弁)

1 原告の各請求をいずれも棄却する。

2 主文第四項と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告が居住する三重県東員町(以下「東員町」という)においては、町県民税の納期が六月、八月、一〇月及び一月に定められてから昭和五一年度に至るまで、町県民税の第二期分から第四期分までの税金の全額を、納期前納付した場合の報奨金は、納期前納付した税額の一〇〇分の一に一三か月を乗じて得た額とされていた。しかるに、被告東員町長は、被告自治省の請求の趣旨第三項記載の行政実例に従い、「納期前に係る月数」を昭和五二年度において従来より三か月を減じることとし、原告に対する同年六月一〇日付同年度納税通知書の納期前納付報奨金合計欄に納期前納付した税額の一〇〇分の一に一〇か月を乗じて得た額に相当する八七〇円と記載し(以下「本件処分」という)、同被告は、同月三〇日、原告より年税額三万四八二〇円から右八七〇円を差引いた金額三万三九五〇円を徴収した。

2  原告は、被告東員町長に対し、本件処分につき昭和五二年八月二〇日に異議の申立をしたが、同被告は同年九月一六日に右異議の申立を棄却した。

3  しかし、本件処分及びその算定方法の基礎となつた本件行政実例は次の点で違法である。

(一) 地方税法三二一条三項の「納期前に係る月数」とは「当該納期後の納期(納期限)前納付に係る月数」つまり、納期前納付した納期の納期限から関係納期の納期限の前日までの月数と解すべきである。地方税法三二一条を租税法律主義の原則をふまえて総合的に理解すれば、同条一項の規定によつて第二期分を第一期の納期内に第一期分とあわせて納付する場合には、第二期分の納期前納付に係る納期は第一期納期であり、第二期分の期限の利益は第一期分にあわせて第一期納期(納期限)に対して放棄があると理解すべきである。つまり、地方税法にいう納期とは納税の期限と解すべきであり(仮に納期が納期間のことであるとしても、確定期限たる意義を有するのは納期間の終末であつて納期間じたいには意義はない)、また第二期分の本来の期限の利益は納期前納付の制度が条例で定められている場合には放棄するのではなく、当該条例が示す報奨金の額が納期前納付による経済的損失を十分補うに足ると納税者が判断したときに右報奨金を対価として当該市町村に譲渡するものであると解すべきである。

(二) 本件行政実例に従えば、第一期を六月、第二期を八月とする市町村が、その納期間を定めるに当り各月一日より末日までとするか(東員町はこのケースである)、一六日より末日までとするか(酒田市はこのケースである)で、納税者が同一の条件で第二期分を第一期の一七日以降に納期前納付した場合の「納期前に係る月数」は一方は一か月になり、他方は二か月となるという不均衡を生ずる。

また、納期間を各月一日より末日までと定めている市町村においては、納税者が第二期分の納期前納付を第一期の一六日にするか、一七日にするかによつて「納期前に係る月数」は一方が二か月になるのに対し他方は一か月にすぎない。

このような不均衡を招来する本件行政実例は憲法一四条、八四条に違反するといわざるをえない。

(三) 本件行政実例が前記(二)のような不均衡を招来するのは、本件行政実例が地方税法上において期間そのものが確定期限たる意義を有し、期限の利益は期間の始日到来までは弁済を猶予される納税者の利益であるとする解釈を前提としているためであり、このような解釈は民法上の期限の終末が確定期限たる意義を有し、期限の利益は期限の到来までは弁済を猶予される債務者の利益であるとする解釈に反しており、憲法を頂点とする同一法体系の下において地方税法の前提たる民法の解釈に反する地方税法解釈を根拠とする本件行政実例は租税法律主義の精神に反し、また、地方税納税者には、一般債務者に認められている民法の期限の利益を認めない点で本件行政実例は憲法一四条にも違反している。

(四) また、東員町は固定資産税の第三期納期間から一二月末の数日を除外しながら普通徴収に係る個人の市町村民税の第四期納期間は、市町村例規準則集に従い一月一日より一月三一日までとしており全国的な休日である一月一日ないし三日を除外していない。しかし、本件行政実例に従えば、このような措置は納税者に不利益であり租税法律主義の精神に反する。

(五) 東員町は第一期納期における納期前納付については本件行政実例を適用しているが、第二期分、第三期分及び第四期分をあわせて七月一日以降に納付された場合の取扱については、本件行政実例と同一の解釈による被告自治省の「納期前納付の報奨金は、徴税令書(現行納税通知書)に記載された納付額のうち到来した納期に係る納付額に相当する金額の税金を納付しようとする場合に、当該納期後の納期に係る納付額に相当する金額をあわせて納付する場合に交付することができるものであるから設例の場合(納期を六月、八月、一〇月及び一月とする市町村において第一期分を完納後七月中に第二ないし第四期分をあわせて納付する場合)は、納期前納付の報奨金を交付すべきものではなく、予納として処理すべきである」とする行政実例(以下「予納行政実例」という)は適用していない。

このような取扱の不統一は本件行政実例の不当性を明らかにしている。

(六) 被告東員町長は昭和五二年度町県民税を賦課徴収するにあたり東員町町税条例(以下「本件条例」という)の改正がないまま納期前に係る月数の算定方法を本件行政実例に示す方法に変更したが、右算定方法の変更の措置及び当該変更された算定方法は租税法律主義の原則に反するものである。

よつて、原告は、被告東員町長に対し、本件処分の取消及び納期前納付に対する報奨金額を一一三一円と決定し、且つ、既交付済金額八七〇円を除く二六一円の支払を求め、被告自治省に対し、本件処分の基礎となつた本件行政実例の取消を求める。

二  被告らの本案前の主張

1  自治省は、行政事務を行う人的物的施設の総体たる官署であつて、行政事件訴訟法三条二項、一一条に所定の行政庁に該当しないから、自治省を被告とする訴は右各条に違反して不適法である。

2  また、原告がその取消を求める本件行政実例は、旧地方財政委員会事務局(現自治省)市町村税課長が、広島県総務部長の疑義照会に対して教示回答した法律解釈の一例にすぎず、原告の権利義務又は法律上の地位に直接かつ具体的に影響を及ぼすような性質を有しないものであるから、行政事件訴訟法三条二項所定の処分に該当しない。従つて右行政実例の取消を求める訴は不適法である。

三  本案前の主張に対する原告の反論

被告東員町長がなした納期前に係る月数算定方法の変更が被告自治省の示す本件行政実例に従つたものである以上、本件行政実例が現実に被告東員町長を拘束し、その結果原告の権利を侵害したものというべきであり、従つて本件行政実例の取消を求める訴は適法であり、被告自治省は被告適格を有する。

四  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2の各事実は認める。

2  同3は争う。

五  被告らの主張

1  本件報奨金交付の理由について

被告東員町長は、原告が、昭和五二年六月三〇日、普通徴収の方法によつて徴収する原告の昭和五二年度町民税及び県民税合計三万四八二〇円(第一期八七二〇円、第二ないし四期各八七〇〇円)の全額を振替納付したので、地方税法四一条、三二〇条、三二一条に基づく本件条例三八条二項、四〇条一項、四一条、四二条により、「納期前に係る月数」を第二期分一か月、第三期分三か月、第四期分六か月として算定した報奨金八七〇円を差引交付したものである。

(算式)

(8,700円×1/100×1)+(8,700円×1/100×3)+(8,700円×1/100×6)=870円

2  「納期」と「納期限」との区別について

本件条例四二条二項に所定の「納期前に係る月数」とは、納付した日から当該納付額に係る納期の初日の前日までの間の月数、と解すべきである。

何故ならば、一般的に、「納期」とは、「地方税を納付する期間をいう。……納期が定められている場合、その納期の末日が納期限である。」と解され(杉村章三郎監修・日本税理士会連合会編集「税務用語事典―三訂版」)、「納期限」とは、「租税を納付しなければならない期限のこと」と解されており(我妻栄等編集「新版・新法律学辞典」)、本件条例においても、「納期」と「納期限」とは明確に使い分けられていて、納付の期限を意味する場合には、必ず「納期限」の語が用いられ(例―四三条二項、四八条一項、二項、五一条二項等)、これに対して「納期」の語を用いた例はなく、地方税法においても、全く同様である(例―同法三一九条の二・三項、三二一条の二・二項、三二一条の一二・一項・二項等)。従つて、文理的に、「納期」を「納期限」と同意義に解釈することは不可能である。

また、本件条例における納期前納付に対する報奨金の制度は、一般の納税意欲を高揚し、納税者の納税に対する積極的な協力を期待するものであつて、納期前に納付するか否かが全く納税者の自由な選択に委ねられている以上、原告主張のように報奨金の額と納税者の期限の利益との間に厳密な対価関係を必要とするものではない。けだし、期間を以て定められた「納期」の期間中に納付する場合、その期間の末日即ち「納期限」までの金利相当分を控除し得ないことからしても、納税者の期限の利益は、納税者が単に放棄することを得るのみのものであつて(民法一三六条二項参照)、当然にその対価を要求し得る性質のものではない。従つて、実質的にも、敢て「納期」を「納期限」と解釈することは不必要である。

以上によれば、本件条例四二条二項に所定の「納期前に係る月数」の解釈については、前記の通りの解釈に何ら不合理な点はなく、この解釈に基づいて算定された本件報奨金の交付は、適法である。

3  本件報奨金の額の算定方法は、本件条例四二条二項に所定の要件を前述の通りに正しく解釈した結果のものであつて、同条項を改正すべき問題がないのであるから、何ら憲法上の租税法律主義の原則に違反するものではない。

六  被告らの主張に対する原告の認否

被告らの主張は争う。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1、2の各事実は当事者間に争いがない。

二  次に被告東員町長の本件処分の適否につき判断する。

1  いずれも原本の存在及びその成立共に争いのない甲第二号証と乙第一号証によれば、本件条例四二条はその一項が「個人の町民税の納税者は、納税通知書に記載された納付額のうち到来した納期に係る納付額に相当する金額の税金を納付しようとする場合においては、当該納期の後の納期に係る納付額に相当する金額の税金をあわせて納付することができる」と、また、その二項は「前項の規定によつて個人の町民税の納税者が当該納期の後の納期に係る納付額に相当する金額の税金を納付した場合においては、同項の規定によつて納期前に納付した税額の一〇〇分の一に納期前に係る月数(一月未満の端数がある場合においては一四日以下は切捨て、一五日以上は一月とする。)を乗じて得た額の報奨金を交付する」と規定されていることが明らかである。

2  ところで、右四二条二項所定の「納期前に係る月数」とは納付した日から当該納付額に係る納期の初日の前日までの間の月数と解するのが相当である。けだし、報奨金制度は、納税者が到来した納期に係る納付額に相当する金額の税金とあわせて、当該納期の後の納期に係る納付額に相当する金額の税金につき期限の利益を放棄して右税金を納付した場合、市町村にとつては徴税手続が簡便になるから、報奨金を交付することにより、納税者の納税に対する積極的な協力を期待するとともに納期前に前納されたことに対する金利という面をも考慮して設けられた制度であるところ、報奨金算定の基礎となる期間については、地方税法三二一条に基づく本件条例四二条二項は「納期前」に係る月数と規定し、納期の初日の前日までとすることを明らかにしており、従つて報奨金の算定期間は期限の利益を放棄した日である納付の日から当該納期の初日の前日までと解するのが相当であるからである。

また、納税者の期限の利益は単に放棄することができるに止まり、原告の主張するように当然その対価を要求しうるものとは解することができず、報奨金の算定期間をどれだけにするかはいつに立法政策の問題にすぎず、さらに、納期の期間に税金を納付するのは納税者にとつて当然の義務であり、納期の期間を報奨金の算定期間に入れる合理性に乏しいことから考えても、本件条例四二条二項所定の納期前に係る月数を前記のように解することは妥当というべきである。

3  ところで、原告は右規定の納期という文言は納期限と同じ意味に解すべきであると主張するので右主張につき検討するに、地方税法上、納期が税を納付する期間をさし、納期が定められている場合その納期の末日が納期限であり、両者は明確に区別されているのであつて、市町村民税の納期前の納付に関する規定である同法三二一条の一項、二項中の「納期」がいずれも右納付期間をさすことは文理上疑問の余地がないが、右一、二項を承けて報奨金額の上限を画している同条三項中の「納期」のみを明文に反して、納期限と読み替えしなければならない理由はみあたらない。このことは同条の規定に基づいて制定された本件条例四二条の規定についても同様である。

従つて原告の主張は採用できない。

4  また、原告は右のように解するときは、市町村の納期の定め方により、あるいは納期が一日より末日までと定められている場合には納付した日により不均衡が生じ憲法一四条、八四条に違反すると主張するので右主張につき判断する。

前記第二号証及び乙第一号証によれば東員町の納期について本件条例四〇条一項は「普通徴収の方法によつて徴収する町民税の納期は、次のとおりとする。ただし、個人の県民税及び町民税の合計額が個人の県民税及び町民税の均等割の合計額に相当する金額以下である場合における納期は、六月一日から同月三〇日までとする。第一期六月一日から同月三〇日まで第二期八月一日から同月三一日まで第三期一〇月一日から同月三一日まで第四期翌年一月一日から同月三一日まで」と規定されていることが認められ、納期が一六日から末日までと定められている市町村と比べると原告の主張するように納期前に係る月数に差がでてくることになり、また、東員町の場合は納税者の納付する日によつても原告主張のように納期前に係る月数に差がでてくるが、右のような差異は前記解釈に従うと結局期限の利益の放棄期間の長い納税者にとつて納期前に係る月数が多くなるということに帰するのであつて、その差異自体は合理的な差異であるから原告の前記批判は当たらない。

5  なお、原告は納期前に係る月数を納付した日から当該納付額に係る納期の初日の前日までの間の月数と解する解釈は地方税法において期間そのものが確定期限たる意義を有し、期限の利益は期間の初日までは弁済を猶予される納税者の利益であるとする民法の解釈と異なる解釈を前提とするもので、憲法一四条及び租税法律主義に反すると主張するが、前項2で述べたとおり、納期前に係る月数についての前記解釈は何ら原告主張のような解釈を前提とするものではなく、また、期限の利益の放棄と報奨金とは対価関係に立つものではないから期限の利益の解釈が報奨金についての規定である納期前に係る月数の解釈に直ちに影響することはないのであり、従つて、原告の主張はその前提自体が失当であるのでこれを採用しない。

6  原告は第四期の納期に一月一日ないし三日を採り入れることは租税法律主義の原則に反すると主張するので右主張につき検討するに、本件では右三日間を除外しても第四期分の納期前に係る月数は六か月とかわらないから、原告の右主張は本件処分を違法たらしめるものとはいえず、それ自体失当であるのでこれを採用しない。

7  原告は、東員町が本件行政実例に従つた算出方法をとりながら、予納行政実例に従わないのは本件行政実例による算出方法が違法であるためと主張するが、予納行政実例なるものが存在するとしても、その内容からして予納行政実例は本件行政実例と適用場面を異にすることが明らかであるから、たとえ東員町が前者に従わないからといつて、取扱に不統一があり、本件報奨金算出方法が違法であるということはできない。

8  原告は本件条例の改正を経ることなく算出方法が変更されたのは租税法律主義の原則に反すると主張するが、右算出方法の変更は本件条例四二条二項の解釈の問題であり、本件条例自体を改正する必要はなく、従つて原告の主張は採用できない。

9  弁論の全趣旨によれば、普通徴収の方法によつて徴収する原告の昭和五二年度町民税及び県民税合計額は三万四八二〇円(第一期八七二〇円第二ないし四期各八七〇〇円)であることが認められ、そうすると原告の昭和五二年度の納期前納付報奨金額は、地方税法四一条、三二〇条、三二一条に基づく本件条例三八条二項(前記乙第一号証によれば右規定は「個人の県民税は、当該個人の町民税を賦課し、及び徴収する場合にあわせて賦課し、及び徴収する」との規定である。)四〇条一項、四一条(前記甲第二号証及び乙第一号証によれば、右規定は「個人の町民税の納税通知書に記載すべき各納期の納付額は、当該年度分の個人の町民税額及び個人の県民税額の合算額を前条第一項の納期の数で除して得た額とする」との規定である。)、四二条により、昭和五二年六月三〇日に原告の昭和五二年度町民税及び県民税を徴収した本件では納期前に係る月数は第二期分については一か月、第三期分は三か月、第四期分は六か月となり、その報奨金額は被告らの主張する計算額と同じく八七〇円となる。従つて、本件処分は適法であり原告の本件処分の取消を求める請求は理由がない。

三  ところで、原告は請求の趣旨第二項で被告東員町長に対し報奨金を一一三一円と決定するよう求めているが、右訴はいわゆる義務付訴訟に属し、本件処分の取消を前提にして始めて許容される余地が生ずるものと解すべきところ、本件処分の取消は前述のように理由がないのであるから、この点において、既に右訴は許されないといわざるをえず、不適法である。

四  また、原告は請求の趣旨第二項で被告東員町長に二六一円の支払を求めており、右は不法行為あるいは不当利得に基づく訴と考えられるが、処分庁は私法上の請求につき被告適格を有しないから、右訴もまた不適法である。

五  被告自治省に対する訴について判断する。

行政事件訴訟法一一条は行政処分取消の訴は処分行政庁を相手方としなければならない旨規定しているところ、原告は本件行政実例の取消を求めるにつき自治省を相手方としているが、自治省は官庁が事務を行うにつき必要な人的物的設備の総合体を指示する概念としての官署にすぎず、行政事件訴訟法一一条にいう処分行政庁にはあたらないというべきであり、従つて被告自治省に対する原告の訴は不適法である。

六  よつて、原告の被告東員町長に対する本件訴のうち、報奨金の決定及び差額二六一円の支払請求にかかる部分を却下し、その余の原告の請求を棄却し、また被告自治省に対する訴を却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 豊島利夫 川原誠 徳永幸藏)

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